2021.01.19

「不眠症」の解説

不眠症は、正常な睡眠が得られない状態を言います。不眠の程度は様々で、軽い場合は入眠困難・目が覚めやすい・二度寝ができないなどの症状が現れるが、重くなると一睡もできなくなります。

 

<原因>

不眠の原因は、過度な精神疲労や激しい怒り、消化器の不調など様々あります。しかし、どの場合も「神(しん:人間の精神や思索活動などの全ての意識活動を表す)」に影響を及ぼして不眠を招くことになります。東洋医学では、この「神」は、臓器の「心(しん)」に蔵されているとされており、「神」が何かに影響されて失調することを専門用語で「心神不安(しんしんふあん)」と呼びます。

 

<不眠のタイプの分類>

1.激しい怒りが肝を傷付けたことによる不眠(肝鬱化火)

◆症状
イライラして怒りっぽい、食欲不振、のどが渇く、目が充血している、小便が黄色い、便秘

◆解説
東洋医学の「肝」は、情志(感情)と密接な関係があるとされています。特に、怒りの感情は「肝」を容易に傷つけてしまい、様々な失調を招くことになります。
「怒髪、天を衝く」という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。これは、激しく怒ると、髪の毛が天を突くくらい気が上昇する、という意味の言葉です。東洋医学の「肝」は、怒りという感情に影響されて、その機能が亢進してしまい、必要以上に気を上に昇らせてしまうという特徴があるのです。怒ると、顔が真っ赤になりますが、あれも怒りにより肝機能が失調し、気が上に昇りすぎたことによる症状の一つです。
そして、気が上に昇りすぎると、熱を生じます。そして、それが「神」に影響してしまうと、「神」がいつも興奮した状態となってしまい、眠りにつけなくなってしまうのです。

◆適応する漢方薬
竜胆瀉肝湯

◆常用されるツボ
合谷・太衝・神門・風池・肝兪

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2.身体の陰陽のバランスの崩れによる不眠(陰虚火旺)

◆症状
動悸、不安感、めまい、耳鳴り、物忘れ、重だるい腰痛、のどが渇く、

◆解説
この陰虚火旺タイプの不眠は、「腎陰虚(じんいんきょ)」がおおもとの原因とされています。
東洋医学の「腎」は、その他の全ての臓器(肝・心・脾・肺)を補う役割があるとされており、「腎」が失調するとその他の臓器まで影響が及びやすいのです。

◆適応する漢方薬
黄連阿膠湯もしくは朱砂安神丸

◆常用されるツボ
神門・太谿・心兪・腎兪

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3.消化器失調が原因の血液不足による不眠(心脾両虚)

◆症状
夢が多く目が覚めやすい、動悸、物忘れが多い、めまい、倦怠感、食欲不振、食べ物の味が薄く感じる、顔色が白く艶がない

◆解説
長期間悩みがあり考え込むことが多くなると、「脾」という消化器官が失調すると東洋医学では考えます。そして、食欲不振を招き、血液が作られにくくなってしまいます。
東洋医学では、血液は「精神活動の基本物質」とされています。つまり、血液が身体に充満していて初めて精神活動が正常に行える、ということです。言い換えれば、このページで何度も出てきている「神」が落ち着かなくなる、ということです。
このタイプの不眠は、消化器の失調による症状が伴なうことです。

◆適応する漢方薬
帰脾湯

◆常用されるツボ
内関・三陰交・神門・太白・心兪・脾兪

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4.驚きやすくなったことによる不眠(心胆気虚)

◆症状
夢が多い、睡眠中に何かに驚き目が覚める、いつもビクビクしている、少しのことで驚きやすい、動悸、倦怠感、

◆解説
このタイプの不眠は、東日本大震災の後によく見られました。また、昨今の新型コロナウィルスによる社会不安の増大にも影響され、このタイプの不眠を訴える患者様が増えています。
上述のとおり、臓器の「心(しん)」には「神」が蔵されています。そして、東洋医学において、「胆」は決断を主(つかさど)るとされています。
この「胆」の決断を主る機能が弱くなると(胆虚)、驚きやすくなり、いつも何かにおびえているような状態になります。この症状を「胆怯(たんきょう)」と呼びます。
これらの「心」と「胆」が同時に弱くなってしまうのが、このタイプの不眠です。「心」の「神を蔵する機能」と「胆」の決断を主る機能が同時に弱くなるのですから、不安感がより一層強くなり、眠れなくなってしまうのです。

◆適応する漢方薬
安神定志丸

◆常用されるツボ
内関・三陰交・神門・太白・心兪・胆兪