2021.01.12

「咳」の解説

咳は、肺系疾患の一つです。東洋医学の専門用語では「咳嗽(がいそう)」と呼ばれ、咳の音がして痰のないものが「咳」、咳の音はないが痰があるものを「嗽」と、細かく分けられています。

 

<原因>

咳が起こる原因は、大きく「外感」と「内傷」に分けられます。

○外感
外感とは、風邪を引いたり、ウィルスに感染したりといった、外部の邪気(外邪)が身体に侵入することにより引き起こされる症状のことを言います。
肺は、臓器の中で唯一、外気と直接接する臓器です。そのため、外邪が身体に侵入すると、まず初めに肺の機能が失調しやすくなります。
主に、急性の咳が該当します。

○内傷
内傷とは、臓腑機能の失調によって引き起こされる症状のことを言います。これは、肺自体の失調と他の臓腑の失調により引き起こされるものがあります。東洋医学の理論では、臓腑は互いの機能を補い合っているとされています。そのため、他の臓腑の疾患が肺の機能に影響を与えて、「咳」という症状を引き起こすこともあるのです。
主に、慢性的に「咳」でお悩みの方は、この内傷の咳に属します。

 

<咳のタイプの分類>

ここでは、内傷による慢性の咳を中心にお話いたします。

1.痰湿による咳(痰湿蘊肺)

◆症状
咳が重く濁ったような音がする、白い痰が多い、痰を出すと咳がおさまる、痰は粘っこく濃い、毎朝もしくは食後に咳をして痰が多く出る、甘いものや脂っこいものを食べると悪化する、倦怠感がある

◆解説
東洋医学では、体内の水分を流しているのは、「脾」という臓器だと考えています。「脾」は、消化機能を主(つかさど)る臓器なのですが、水分の流れを促進する役割もあるのです。そのため、痰が多いために気の流れを阻害して起こる咳は、「肺」だけではなく、「脾」の機能を調整することで改善を図ります。
普段から、痰がのどにからむ方は、脂っこい食べ物や過度な飲酒を控えると、痰が減り、痰が原因の咳が起こりにくくなります。

◆適応する漢方薬
二陳湯・三子養親湯

◆常用されるツボ
列缺・豊隆

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2.ストレス性の咳(肝火犯肺)

◆症状
咳をするときは顔が真っ赤になる、痰がからむが出しにくい、痰の量が少なく粘っこい、胸や脇が張ったような痛みを伴う、ストレスを感じたときに悪化する

◆解説
東洋医学では、「肝」は気を上にあげる力が強く、「肺」は気を下に押し下げる力が強いと考えられています。そして、「肝」と「肺」はお互いを制御しながら、全身の気の上昇・下降のバランスを保っています。
人間は、長期にわたってストレスを感じると「肝」の気がより強く上昇し、「肺」の「気の下降」を阻害するようになります。そして、「肝」の異常に上昇する気に押されて気逆(気が上に逆流すること)することで、咳という症状が現れます。

◆適応する漢方薬
加減瀉白散合黛蛤散

◆常用されるツボ
合谷・太衝・尺沢・肝兪・肺兪

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3.肺の潤いがなくなった時の咳(肺陰虚)

◆症状
空咳(乾いた咳)、痰は少ないか痰に血が混じる、口内とのどが渇く、午後に発熱する、寝汗をかく

◆解説
肺は、乾燥に弱い臓器です。乾いた場所では咳が出やすいように、肺を潤す「肺陰(はいいん:肺を潤す水分のこと)」が少なくなると、肺自体の潤いが低下し、咳などの症状が出やすくなります。

◆適応する漢方薬
沙参麦門冬湯

◆常用されるツボ
尺沢・太谿・肺兪・腎兪